「お世話になりました。また来年も来きます!」
「毎年ありがとう。お元気でね。来年も待ってるよ」
「はい。必ず!」
「さようなら」
「さようなら」
ことぶき荘の朝は、お客さんとお別れの時間でもあります。とてもありがたいことに、10年、20年、2世代、3世代と通ってくださっているお客さまがいらっしゃいます。
「ただいま〜!」
「今年も来たよ〜〜」
「まぁ美人さんになって。お父さんは気が気でないいわね」
「お、ちょっと恰幅がよくなったんじゃないか?」
「大きくなったねえ、何年生?」
1年振りの再会をお互いに喜び、ゆっくり楽しんでいってくださいね、とお部屋へご案内します。
1泊だけでなく2泊3泊と連泊してくださるご常連さんもいて、ほんの数日ですが「いってらっしゃい」「おかえりなさい」「おはようございます」「おやすみなさい」そんな挨拶を交わし、仕事のことや家族のことを聞かせてもらったりしていると、情がわいてくるというもの。
別れ際は、ちょっぴりセンチメンタル。
先日、ヨーロッパ圏のお客さまが2泊されました。3つぐらいのお歌が好きなかわいい女の子連れで。
帰り際、母が背をかがめて「またおいでね」と言うと、眉間にしわをよせてイヤイヤとしています。
「ホームシックで早くおうちに帰りたいのかしらね」と言うと、「ここがおうち!」と言って今にも泣き出しそうです。
なんて嬉しいことを言ってくれるの!
思わず、女の子を抱きしめてしまいました。
毎日毎日、お客さま方をお見送りし、新しいお客さまをお迎えする。宿商売にとっては当たり前の日常ですが、父と母のことを「おとうさん」「おかあさん」「おじちゃん」「おばちゃん」と慕って声をかけてくださっているお客さまと両親とのやりとりを仕事をしながら耳の端で聞いていると、繰り返される普通の毎日にも、小さなドラマがあるのだなあと感慨にふけってしまうのでした。
「来年も必ず来ます」
私たちには、なにより嬉しい言葉です。
「来年も、再来年も。お待ちしていますね!」